動画配信市場に新たな兆し ~「映像メディアユーザー実態調査2017」より~

2015年の秋に鳴り物入りで登場したふたつの定額制見放題サービス、Netflix(ネットフリックス)とAmazon(アマゾン)プライム・ビデオ。2016年の動画配信市場は、この2サービスの動向に注目が集まり、市場の急伸に期待が高まった――。

しかし、終わってみると、市場は思いの外急速には伸びず、坂道を転げ落ちるように縮小し続けるDVDレンタルの落ち幅を埋めるには程遠い状況にある。

弊社が株式会社フィールドワークスとともに調査したレポート『映像メディアユーザー実態調査2017』(2017年3月発行)では、有料の動画配信(ビデオ・オン・デマンド)の利用率は9・3%であり、前年の8・3%からわずかに1ポイントしか伸びていない。一方、DVDレンタルは前年から4・5ポイントと大幅に利用率を下げたが、それでも全体の28・9%の人が今でもレンタル店に通っている。有料の動画配信利用者は、その三分の一にも満たないのである。

有料動画配信の内訳を見ると、Amazonプライム・ビデオは有料動画配信利用者の25・8%が利用経験があり、「最も利用者の多い」サービスとなった。前年の7・4%から実に18・4ポイントの伸びで、なるほど、Amazonプライム・ビデオにおいては明らかに急伸した、と言える。これを追う形となったHuluは前年まで断トツで利用者の多かったサービスで、22・4%とこの一年で微増した。しかし、このふたつに続くほとんどのサービスが前年から利用者を減らしており(Netflixは2・2%から5・6%に伸長)、結果としては、有料動画配信の既存利用者がAmazonプライム・ビデオに利用サービスを切り替えた一年だったと言え、まったくの新規利用者が大幅に伸びたとは言い難い状況だ。

話題を集めたAmazonプライム・ビデオ、Netflixのほかにも、既存サービスのHulu(フールー)、dTV(ディーティービー)などがしのぎを削る定額制見放題サービスに加えて、2016年は新たな形のサービスが動画配信市場で注目を集めた。

 アメーバブログを展開するサイバーエージェントとテレビ朝日が手掛けるAbemaTV(アベマティービー)は、広告モデルの無料インターネットテレビ局。約30のチャンネルで多彩なジャンルのコンテンツを24時間リニアで“放送”し、生放送のバラエティ番組や、人気アーティストの生中継コンテンツなどで人気を博す。昨年4月に開局し、2017年1月時点でアプリのダウンロードは1300万を突破した急成長のサービスだ。

また、スポーツの分野では、Jリーグ全試合の放映権を、10年間、約2100億円で獲得したDAZNが昨年8月にサービス開始。
Jリーグのほかにも、欧州のサッカー、バレーボールのVリーグなど、国内外で年間6000試合以上のスポーツが月額1750円で見放題という強力なサービスだ。そして、このサービスを今年2月15日からはドコモユーザーに向け、月額980円で展開する。Jリーグ開幕に際してサーバーダウンなどの問題も起きたが、今後、どこまで利用者を獲得するかが注目されている。

総務省は、2020年を目途に、NHK番組のインターネット同時配信の計画を発表した。こうした流れのなかで、動画配信市場は今後、「オンデマンド」に加えて「リニア」が台頭し、テレビ放送との融合が進むことになる。動画配信市場において、映画や映像コンテンツを気軽に楽しめ、かつてのビデオレンタルのような市場が構築されるのか否か、2017年はそうした将来像が見え始める年になりそうだ。

代表 四方田 浩一(2017.3.21)

 

 
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<動画配信元年>の年に ~設立2年目にあたり~

 既存サービスを維持しつつ、新たなサービスを伸ばす可能性

日本テレビのメディア力を背景にした「Hulu」の躍進、docomo「dTV」のサービス拡充とUIの劇的な刷新、世界最強のサービス「Netflix」の日本上陸、EC市場の覇者「Amazon」のビデオサービス本格化など、2015年は定額制の動画配信サービスがメディアを大きく賑わせ、ホームエンタテインメントとしての動画コンテンツ視聴者の注目を集めました。広義でいう「ビデオ・オン・デマンド」サービスは、今年、<元年>を迎えたといっても過言ではないでしょう。

では、動画配信市場がこのまま一気に立ちあがるかといえば、そうとも言えないようです。レンタル市場のようにサービスが大衆化するためにはテレビモニターでの視聴環境が必須となりますが、そのテレビへのネット接続率はいまだ3割に届きません。また、携帯端末とテレビをつなぐストリーミングデバイスや、専用のセットトップボックスの利用にはそれなりのリテラシーも必要で、広く普及する段階にはありません。結果、動画配信視聴はいまだPC利用が主流です。

各動画配信事業者では、コンテンツの拡充や視聴デバイスの拡張、そして使い勝手の良いUIやデータベースのレコメンド機能の充実など、サービス全般の向上へ日々努力を重ねています。もっとも大きな課題は、テレビメーカーの動画配信サービスへの優先順位の低さにあるようです。これは4K放送への対応が最優先事項であることに加え、既存の放送局への配慮もあります。例えば、リモコンでスイッチを入れると必ずメニュー画面(放送、動画配信などが並ぶ)が立ちあがるような設定であれば、動画配信は大きく利用率を伸ばすことでしょう。テレビモニターをテレビ放送専用のデバイスとして位置付けるのは、すでに利用者のニーズに合致していないように思います。

また、レンタル、販売とパッケージソフト市場の縮小傾向も止まる気配を見せません。レンタルに関していえば、採算を度外視した過度な料金競争が長らく続いたことで、結果、全国で500軒以上の店舗が撤退し、これによりその地域の映像視聴需要が損なわれました。もちろん、そのうちの何%かは、少し遠くのレンタル店を利用し、またはペイチャンネルと契約し、あるいは動画配信サービスを利用しはじめたはずです。しかし、市場が損なわれた規模ほどには代替サービスの市場は伸びていません。果たして有料で動画コンテンツを視聴していた人たちはどこへ行ってしまったのでしょうか。

映画館利用は他のサービスとは質が異なり、3D、4D上映やライブストリーミング上映に活路を見出し、スポーツ観戦や音楽ライブ鑑賞のような「イベント」としてユーザーのニーズに応えています。一方、有料放送市場はこの数年踊場に立たされています。そして今後は、動画配信サービスとの料金比較という厳しい局面を迎えようとしています。音楽、スポーツなどのプレミアムコンテンツを提供できるチャンネル事業者以外は、長くビジネスを続けることは難しいのでは、との見方も強いです。

こうした各種映像視聴サービス市場でいかに最大限売上を作っていくか、映像コンテンツの権利者にとっても舵取りが難しい時期です。ただ、コンテンツのウインドウ期間(どのメディアにいつ出すか)や料金(売価が反映される意味での価格コントロール)を決められるのは権利者でしかありません。各サービス市場をバランス良く、または極端な新戦略によって、既存サービスを維持し新たなサービスを伸ばすことも不可能ではないと考えます。

二年目を迎えて、私たち映像メディア総合研究所では、これまで以上に市場に寄り添った調査研究を行い、映像産業の皆さまにご提案させていただく所存です。

代表 四方田 浩一(2015.11.7)

 

 
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■映像メディア総合研究所、設立にあたり

 2010年代半ば、映像視聴サービス市場は踊場に立たされています。

民間地上波テレビ放送は2009年以降5年連続の2兆円割れで、放送広告以外の収入源を模索し続けています。また、映画興行は2001年から続く2000億円規模を維持するものの、その内訳は当たる(回収できる)作品と当たらない(回収できない)作品の二極化、そしてシネマコンプレックスのスクリーンを埋めつくす一部の当たる作品により他の作品の上映回数が減り、作品の多様化がますます損なわれています。BS、CS、ケーブルなどの有料放送は、2011年7月の地デジ移行を前後し契約件数を伸ばしましたが、2013年、2014年とその反動で微減傾向にあります。そして、DVD、ブルーレイ・ディスクなどパッケージソフトは、2005年から比べ、レンタルが約1400億円の減少、販売が約700億円の減少と市場が急速に縮小しています。

 一方、新たなマーケットとして期待された動画配信市場(ビデオ・オン・デマンドやデジタルデータ販売)ですが、サービスが開始されて10年以上が経ち、ようやく1000億円規模へと成長しました。しかし、既存のサービスに比べまだまだ認知度が低く利用率が限定され、さらなる市場拡大のためには数々の障壁を乗り越える必要があります。

 こうした映像視聴サービス市場の現況に対し、多くの権利者や事業者の方々が閉塞感を感じています。映像産業に限らず、ネット社会が既存のマーケットの在り方を大きく変えていく中、映像視聴サービスの在り方も変化していかなければなりません。それは、業界の常識を覆し、一時的に大きな痛みを伴うことかもしれません。しかし、それを乗り越えていかなければ映像視聴市場はますます縮小し、産業面に加え、文化として映像が果たす役割自体も希薄になっていくでしょう。

 私たち映像メディア総合研究所では、こうした現況を踏まえて、それぞれの課題に仮説を立て、調査・分析し、映像産業の皆さまにご提案をさせていただきます。まずは大変小さな組織からのスタートですが、映像文化・産業の発展に少しでも貢献できますよう、業務にまい進する所存です。

代表 四方田 浩一(2014.11.7)